タイでの武者修行
- tuatstudyabroad
- 2022年3月24日
- 読了時間: 9分
更新日:2022年4月21日
「タイに武者修行に行きたい」
そう思ったのが、大学2年生の冬でした。そして大学3年生の8月から翌年1月までの5か月間、タイに留学に行きました。「武者修行ってどういうこと?」と思われるでしょうが、それについては後ほどお伝えします。この記事では、僕が留学したきっかけや目的、現地での様子などを書きました。留学の一例を知ってもらうことで、留学に興味のある農工大生、留学に行こうか迷っている農工大生の役に立てれば嬉しいです。
プロフィール
名前:マスカワ
派遣時の所属:農学部生物生産学科3年
参加したプログラム:AIMSセメスター派遣
留学先:タイ、カセサート大学
留学期間:2019年8月~2020年1月
進路(2022年3月時点):アウトドア・食品メーカーと公立中学校非常勤講師(理科)の兼業
留学の目的
僕の場合、留学の目的は以下の2つでした。
① 海外での長期滞在がどのようなものか、自分の体で知ること
こちらは主に学業面です。僕は受験生の頃から国際協力(発展途上国の支援など)に興味がありました。特に水資源管理などに興味がありました。しかし、自分はそれまで海外に行ったことが一度もありませんでした。英語は受験のとき苦手科目ではなかったものの、実際に使ったことはありませんでした。将来の仕事のため、海外での長期滞在(海外旅行ではなく)がどのようなもので、自分がそれに耐えられるのか身をもって知りたいというのが目的の一つ目でした。(正確には、AIMSセメスター派遣が決まった後、2019年2月にAIMS短期派遣で2週間タイに行った後にセメスター派遣でしたが、応募時は海外に行ったことはありませんでした)
② ムエタイ修業
僕は高校生のときから、ある武術・格闘技を学んでいます。それに関連して、様々な武術や格闘技に興味があるのですが、特にタイの国技であるムエタイに関心がありました。そのムエタイを、ある程度の期間をかけて現地で学びたかったのです。
タイトルにもあるように、僕にとって今回の留学は「武者修行」でしたが、誤解してほしくないのは、②のムエタイ修業だけを指して武者修行と言っているのではなく、①の学業面も含めて「武者修行」と捉えて留学に行ったということです。「ムエタイだけやりに行った」などと言われないよう、現地での授業にしっかりと取り組み、しっかりと単位をとって来ようと決めて渡航しました。AIMSでは面接があるのですが、そこでは上の2点を隠さずに話しました。
自分は大学2年の冬に上記のことからタイに行きたいと思いましたが、実はそれまで留学に行くつもりは全くありませんでした。それがあるきっかけでAIMSに応募することになるのですが、そのターニングポイントについては最後にお話しします。
留学の盲点:渡航準備
渡航前の準備についてですが、これが自分にとって大変でした。僕は「渡航してから」の現地での生活が大変なイメージがありましたが、ある意味では「渡航前」の準備の段階の方が大変でした。そのような意味で、渡航準備は盲点でした。ビザの申請や現地でお金を引き出せるようにしたり、現地でスマホを使えるようにSIMフリーにしたり…終わった今となっては何ともないことですが、当時の僕にとっては知らないことだらけでした。また、渡航後にどんな生活になるのかを見ていないために、無用に不安が大きくなっていたこともありました。渡航後は、何が必要なのかが分かる点で楽でした。この記事を読んでいる方で留学が決まった方は、渡航前の準備の段階から、心構えをしておくと良いと思います。その心構えさえあれば、それほど大変ではないと思います。
現地での生活・学業面
セメスター派遣では、1セメスター(1学期間)、現地の大学(学部)の授業に参加しました。自分が派遣されたのは、タイ人以外にもアジアやヨーロッパの留学生がいて英語で授業が行われるコースでした。1コマ180分の講義を月曜から金曜まで1日1コマ受けました。どの科目を受けるかは選択できます。自分が受けたのは以下の科目でした。
Principles Soil&Water Conservation(土壌侵食に関する授業。一泊二日の校外学習あり)
International Agri-enterprises(国際展開している企業の経営戦略についての授業。一橋大学に留学していた先生で、時々日本語で会話しました)
Thai Conversation in Everyday Life Ⅰ(タイ語の授業。最前列で授業を受けていたので、先生と仲良くなりました)
Paradigm of Agricultural Extention(農業技術を農家に伝えるための方法についての授業)
Principles of Tropical Agronomy(毎週さまざまな先生が交代で農業に関するテーマを教えてくれる授業)
内容としては農工大で学べるものも多いのですが、「英語で授業を受ける」ことや「海外で生活する」こと自体が自分を鍛えてくれたと思います。「留学といっても、そこまでして学びたいテーマがあるわけでもない」という方も、海外に興味があるのであれば、留学経験自体が自分を鍛えてくれることは確かですので、ぜひ留学してみることをお勧めします。
なお、<留学の目的>で述べた通り、ムエタイ修業だけでなく、学業もしっかり取り組むと決めて渡航しました。そして無事、これらの単位はすべて取得できました。



現地での生活・ムエタイ修業
ムエタイ修業についてお話します。留学先で何か目標がある人の参考になれば嬉しいです。
自分は大学の寮に住んでいましたが、その近くにムエタイジムがあり、そこに通いました。タイには観光客向けのジムもあるのですが、僕の通ったところはそうではなく、プロ選手もいるようなところでした。必要最小限のタイ語のフレーズだけ覚え、渡航後1週間も経たないうちにそこへ行き、「ヤーク リアン ムエタイ クラップ(ムエタイを学びたいです)」と言って入れてもらいました。平日の授業後や休日に通い、ミットやサンドバッグでの練習を通してムエタイのパンチやキックといった打撃の技術を学ぶことができました。また、ブアカーオという有名選手がやっているジムがチェンマイという所にあり、電車で15時間かけて行ったりしました。異国の地でタイ人の練習をこの目で見たこと、その中で一緒に練習出来たこと自体が自分にとっては財産です。
しかし、トータルで見ると、このムエタイ修業は明らかに「失敗」でした。失敗だった点は大きく分けて2つあります。1つはムエタイの首相撲という技術をあまり教われなかったこと、スパーリング(実戦形式の練習)があまりできなかったこと、試合に1回も出られなかったことです。もう1つは、途中から練習に行けなくなってしまったことです。それは自分のせいです。何かが忙しくて、というわけではありませんし、ジムの選手も皆優しかったです。単にモチベーションの低下ともいえるかもしれませんが、「せっかくタイまで来て、俺はいったい何をしているんだ」と感じながらも、なぜか練習に行けませんでした。精神的にがんじがらめで身動きがとれなくなってしまい、頑張りたいのに頑張れない状態が、苦しかったです。しかし、失敗ではありましたが、その中で見えてきた自分の弱点や新しい発見がありました。詳細は割愛しますが、「人は失敗しないと学ばない」とも言われます。失敗することで見えてきた弱点を知ることや、そこでの悔しさ、苦しさも自分にとっては大事な勉強だったと感じています。その弱点は未だに完全に克服できていませんが、このムエタイ修業の失敗体験は同時に成長材料でもあり、活かしていきたいと改めて感じています。その意味で、タイに行って良かったと思っています。



帰国直前、ムエタイジムに挨拶に行ったときの様子
留学で得た手応え
今回の留学では、「目的のためであれば、海外でも大丈夫だ」という実感を得ることができました。どういうことかお話します。前述したように、国際協力に興味があって、海外での長期滞在に自分が耐えられるのか知りたかったのですが、その点は大丈夫なことが確かめられました。また、海外へのハードルが下がりました。たとえば海外へ行くための手続きや準備を一度経験したのでイメージがつきますし、英語も最初は抵抗がありましたが「タイ語に比べれば分かるし、ペラペラではないけど辞書があればなんとかなるだろう」という感覚も得られました。これらは本やネットを探しても絶対に得られない感覚です。他人ができるかどうかではなく、自分ができるかどうか、という話だからです。実際に試さないと分かりません。しかし、将来の仕事についての考え方は変わりました。留学前は「海外で仕事をすること=かっこいい」と思っていましたが、行ってみると「別にそんなことないな」と思いました。海外で仕事をしていようが、国内で仕事をしていようが、関係ないと感じたのです。その意味で、「海外で仕事をすること=かっこいい」という無駄な幻想を抱いたまま進路を決めることにはならなかったのが良かったです。
このようなことから、海外に行くことを目的にはしませんが、何かの目的のためであれば、海外にも行けるという手応えを得ました。
ちなみに2022年3月現在、某アウトドア・食品メーカーと公立中学校の非常勤講師(理科)の兼業で働いています。留学の経験がその選択に直接繋がっているのかは分かりません。知らず知らずのうちに繋がっているのかもしれませんが。ただ、直接海外に関係していなくとも、留学の経験を活かすことはできると考えています。たとえばムエタイ修業の失敗経験を成長材料に変えることです。いずれにせよ、留学の経験をより一層活かしていきたいと思っています。
説明会に行ってみてください
長くなりましたが、最後に一番お伝えしたいことをお話します。農工大ではさまざまな留学プログラムが用意されており、その説明会も頻繁に行われていると思います。説明会に行ってみてください。これが一番お伝えしたいことです(大学側からこう書けと言われたわけではありません笑)。
先述したように、自分はもともと留学に行くつもりは全くありませんでした。海外に興味はありましたが、旅行であちこち回ればいいと考えていました。お金もかかりそうなイメージがあり、そこまでして学びたいテーマが明確になっていたわけでもありませんでした。それが、AIMSセメスター派遣を希望するようになったのは、説明会がきっかけでした。参加した経緯はよく覚えていませんが(友達に誘われた気がします…)昼休みに行われる説明会に参加したときに、奨学金(給付型)の話を聞いて、目から鱗が落ちました。奨学金を頂ける場合とそうでない場合もあると思いますし、行く国の物価にもよりますが、「奨学金がもらえれば、留学って意外とお金がかからないんだな」と感じ、座って話を聞きながら、自分の中のいろいろな興味関心が繋がり、「武者修行か…面白そうだな」と心を躍らせました。そして後日、別の説明会後、そこにいた留学担当の先生に「留学興味あるんですか?」と聞かれ、「実はムエタイに興味があって…」と素っ頓狂な返事をしたことから、いろいろな情報を教えてもらい、そこから僕の留学が始まりました。
皆さんも、説明会に行ってみることで、またはそこにいる留学担当の先生とお話しするなかで、さまざまな留学の機会(予めお膳立てされているプログラムもあれば、自分で組むものもあります)の中から自分自身の興味関心と化学反応を起こすものが出てくるかもしれません。
僕はいきなり「留学に行け」なんてハードルの高いことは言いません。説明会に行ってみてください。タダです。
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